東京→設楽町津具 コーヒーを飲みに、野菜のおすそ分けに。人が集うオフィスがあります。 2020年〜

株式会社オリエンタルコンサルタンツ
中部支社 河川砂防・港湾部

空 かおり さん
高橋 勇也 さん
甲斐 貴彬 さん

河川や道路などインフラ構築・維持管理事業や発電事業、地方創生事業などを展開する同社。2021年より津具の古民家にワーケーションの拠点として現場事務所をかまえ、設楽町やダム事業の地域振興に関する仕事を行っています。

現場事務所を構えた経緯を教えて下さい。

空さん:地域にお邪魔するときは、宿泊施設を利用するのが一般的です。でも設楽町では住民のみなさんともっと近くで関われる形をとりたかったのです。長いお付き合いを見据えて、事務所を構え、仕事はもちろん地元のみなさんとも関われる場所を作りたいと考えていました。
当社は地方創生に力を入れています。神奈川県開成町では、まちと企業と地域が酒蔵を中心につながることを目的に、瀬戸酒造店の酒造の復活・経営を行っています。瀬戸酒造店で作られた日本酒はパリ開催の日本酒コンクール「Kura Master」で受賞しました。和歌山県白浜町・紀南地域では、交流促進や地域活性化を目指して南紀白浜空港でワーケーション施設を整備しています。当社は何事にもチャレンジしてみようという社風があるんです。設楽町で地域振興に関わらせていただく中で、新たな仕事スタイルや事業にチャレンジしてみたいな、と。
甲斐さん:古民家を現場事務所にする、というのは当社でも初めての挑戦でしたよね。
高橋さん:まちづくりでの活動をする上で地元の方と繋がりやすい環境が欲しい、と空さんが会社に提案して、そこに甲斐くんと僕が「面白そう!」って乗っかったんです。
空:巻き込まれた、とか思ってないでしょう?
甲斐さん:そうですね。どっちかというと自分から突っ込んでいった感じです(笑)。
空さん:甲斐くんが良いこと言ったよね。地図を見ながら「ここって日本の真ん中なんですね。ここで僕たちのチャレンジ始まるんですね」って。ジーンと来たなあ。

地域ともっと深く関わろうと思ったのはなぜですか?

空さん:これまでいくつかダム事業に関わってきた中で、ある現場での経験が大きいです。ちょうど娘が生まれて育休明けの時期で、娘の育児と仕事で本当に忙しくて。娘を連れて地域に関わる時間も多く、地元の方々が娘の面倒をよく見てくれました。子供の世話を通じて、自分たちの町が抱えている課題や、将来こうなっていくと良いなという話を直接お聞きすることができて。コンサルと地元住民、というより1対1で気持ちを聞かせてもらえたことがとても嬉しかったのを覚えています。地域振興に関わる以上、そこに住む方々が住み続けたいと思えるまちづくりを目指したいと思いました。同時に「本当の生の声」って、1回や2回顔を合わせただけじゃわからないんだなあと。ですから設楽町では、地域の方々と心を通わせながら、どっしりこの土地に根付いた仕事がしたいなと考えたのです。

物件はどうやって見つけたのですか?

空さん:貸してもらえる古民家がないか、設楽町役場に相談しました。初めはコンサルタントなんて煙たがられるかな……と思ったんです。でも担当の方に私たちの想いを話したら、すぐ面白がって受け入れてくれて。受け入れてくださったこと、本当に嬉しかったです。
高橋さん:最初にこの物件を内見した時のことをよく覚えてます。ちょうど桜が満開の時期でした。
甲斐さん:みんな一目で物件も土地も気に入りましたよね。自転車でスーパーや郵便局に行けるし、無人販売所もいたるところにあるし。
高橋さん:実際に古民家を現場事務所として活用するようになってからも、「不便すぎる!」っていうことは無いですよね?
空さん:わからない。だって私たち誰一人として都会出身がいないもの(笑)。強いて言えば、まだ冬を経験していないからこの家で寒さに耐えれるかな? というぐらいかな。古い家だし、隙間風に耐えられなかったら何か対策しよう!

ワーケーションの成果としてはいかがですか?

空さん:働きやすい環境に整えるべくこの家を片付けるところからスタートしました。それからも何かと3人で力をあわせることが増えたので、チームビルディングの面でも良い効果があるなと感じています。
高橋さん:遠慮なく本音で議論できるようになりましたよね。天気が良い日は外にデスクを置いて仕事しているんですが、気持ちいいですよ。頭もスッキリするし、近くの川のせせらぎがちょうど良いBGMなんですよね。
甲斐さん:今は名古屋や東京と設楽を行ったり来たりしながら仕事をしていますが、3人とも宮崎・福島・広島と地方出身ということもあり、ココに来ると「ふるさとに帰ってきたなあ」という気持ちになります。

住民との「距離の近さ」はどんなときに感じますか?

空さん:事務所の前に掲示板を作ったんです。そこに私たちの目線で感じたことを、ツイッターのように勝手に発信しています。「今朝の虹は見ましたか?」とか。散歩で通るご近所さんが、掲示板を見て話しかけてくれることもありますよ。
高橋さん:通学路なのでお子さんが大きな声で挨拶してくれたり、3人で草むしりしてると「今日もがんばっとるねえ」ってニコニコしながら見守ってくれたり。
甲斐さん:僕、コーヒーを淹れるのが好きで、ここで時々「カイ珈琲」として、現場事務所に来られる方にコーヒーをお出ししてるんです。「一杯良い?」って地元の方が遊びに来てくれることが増えました。
高橋さん:野菜をおすそわけしていただいて、天狗なすやルネッサンスとまとの美味しさに感動しましたね。
空さん:ここでのシェフ担当は甲斐くんで、設楽のお野菜で美味しいご飯をつくってくれるんですよ。
甲斐さん:手料理はご近所さんにもおすそわけしています。
空さん:先日は事務所をギャラリーにして、大学生アーティストの作品を展示する芸術祭「カッテニシタラ」を開催しました。設楽町のみなさんにお越しいただいて、作品やアーティストさんとのコミュニケーションを楽しんでいただきました。

この場所を拠点にどんどん新しい繋がりが生まれていますね。

空さん:そうなんです! これからも楽しみ。事務所の隣に大きな倉庫があるんですが、ここも自由に使っていいと言ってもらっています。まだ構想段階ですが、キッチンとコワーキングスペースにリノベーションして、住民の方やいろんな企業の方が集まる場所にしたいなともくろみ中です。
高橋さん:ここでさらに新しい繋がりやアイデアが生まれる、なんて考えるとワクワクするなあ。
甲斐さん:このリノベーションを通して、地域の方ともさらに良い関係性を築いていければと思っています。
空さん:設楽町の事業が終了してこのチームが解散しても、次の地域で同じように拠点を構えて、全国に「地域イノベーションが起きる古民家事務所」の事例ができたら面白いですね。

愛知県東郷町→設楽町 自然農法ができる暮らしを求めて名倉へ。元料理人夫婦の挑戦。 2020年〜

 

今  吉司さん・千裕さん

前職は飲食業に就いていたお二人。田舎暮らしに関心があった千裕さんの提案で、東郷町から設楽町名倉に移住してこられました。自宅前の土地に田畑を耕し、肥料や農薬を使わない自然農法で野菜や米を育てています。

どんな経緯で田舎暮らしを選択したのですか?

千裕さん:大きなキッカケとなったのは”私のオシ”です。農薬や肥料を使わずに作物を育てる自然農法に関心がありました。どうせやるなら思い切って田舎暮らしして、本格的に取り組んでみたくって。それで夫に提案したんです。
吉司さん:当時はホテルのレストランでパティシエとして働いていたのですが、その生活が変わるなんて考えたこともありませんでした。突然田舎暮らししようと言われても、あまりイメージが沸かなくて。でも、その話をするときの彼女がとっても楽しそうだったんですよ。その笑顔に引っ張られちゃって、「じゃあやってみようか」と。
千裕さん:今振り返ったらすごい勢いだね(笑)。

自然農法できる場所であれば他にもたくさんありますよね。なぜ設楽・名倉へ?

千裕さん:ひとことで言えば”ご縁”です。
吉司さん:「農地付き物件」を条件に、岐阜県の恵那や岩村……いろんな所に見に行きました。奥三河も候補に入っていて、たまたま名倉の不動産屋を見つけたので設楽町の物件を案内してもらっていたんです。ただピンとくる物件が無く、もう帰ろうかというときでした。妻が「自然農法に興味があって」と不動産屋の方に話したところ、「それなら会わせたい人がいる」と。
千裕さん:そこで紹介してもらったのが、当時この家にお一人で住んでいたAさんです。私はなるべく化学製品を使わない、地球に還る暮らしをしたくて、自然農法に挑戦したいと話したらその方が「やり方教えたる」と。しかもガスを通さずに薪を焚いて生活されていたんです。それを聞いたらもうワクワクが止まらなくって、私もやってみたい! と話すうちにAさんとすっかり意気投合して。高齢だったので家と土地を誰かに譲りたいと考えていたようで、私たちが使わせてただけることになりました。
吉司さん::引っ越しもして、さあこれから新しい生活を始めようというときに、Aさんが病気で亡くなってしまったんです。
千裕さん:Aさんの人柄に惹かれて名倉に来たので、とても残念でした。でも悲しんでばかりじゃ前に進めませんから。私たちにできるのは遺してくださった家や暮らしを大切に引き継ぐこと。初めての田舎暮らしに悪戦苦闘しているのを、きっと今もどこかで笑いながら見守ってくれているはずです。

薪焚き生活に自然農法。ハイレベルな田舎暮らしがスタートしたのですね。

吉司さん::思っていたよりずっと大変です。まずは農作業ですね。米のほかに山芋・里芋・大根・春菊・白菜・トマト……いろいろ育てています。
千裕さん:米作りでは機械を使っていません。すべて手植え・手刈りです。後半は鎌の重みで手がプルプルしてくるんですよ。刈った稲は束にして天日干しするのですが、稲束も意外と重くって、足腰が相当鍛えられてる気がしますね。
吉司さん:僕は日中は近所の福祉施設に勤務しているので、前後の時間で農作業しています。体力的には前職時代より大変ですね。夏の暑いときも冬の寒いときも作業しなきゃいけませんから。いざやってみてその辛さを実感しているところです。僕たちが作業しているとフラッと近所の方が寄ってきて、「こうすると良いよ」ってレクチャーしてくださることがあるんです。田舎暮らし初心者にとってとても心強いです。
千裕さん:「名倉を元気にする会」の金田さんとか(写真右)。
吉司さん:本当にお世話になってるよね。自然農法で育てると初めは失敗するケースが多いんですが、幸運なことに、私達は1年目から豊作。「わからないことは何でも聞いて」と言ってくださるみなさんのおかげです。金田さんはお風呂を沸かすのに必要な薪もおすそわけしてくださるんです。
千裕さん:役場に無償の薪割り機があるので、ゆずっていただいた薪はそこで割っています。

千裕さんにとっては念願の田舎暮らし。吉司さんはいかがですか?

吉司さん:田舎暮らしとはいえ、ガスまで無いのは僕からすると「ちょっと待った!」って感じだったんです。だって帰宅してからお風呂を沸かすのに1時間半ですよ。でも思いのほか妻の押しが強かった(笑)。
千裕さん:ちょっと強引だった?(笑)。でもどうしても挑戦してみたかったんです。
吉司さん:妻のおかげで新しい世界を見れてると思えば、まあ良いかなって。薪を焚いて沸かしたお風呂って最高に気持ち良いということも知れましたし。
千裕さん:下水は土中の微生物に分解してもらう「ニイミ式浄化法」を用いて処理しています。生活水は近くの井戸から。必要最低限の電気は通っているので、組み上げポンプを使っています。
吉司さん:不便だけど、そこに惹かれてくのかな。ガス無しの薪生活も、農作業も。名倉で暮らし始めてから、朝早く起きることが気持ち良いと感じるようになりました。起きてすぐ、自分たちの米を土鍋で炊くんです。それが楽しみで。
千裕さん:夫は嫌いな野菜が多かったんですが、ここに来て好きになったみたいで。料理人なのにね。
吉司さん:苦手だって言ってるのに、奥さまが食卓に出してくるんですよ(笑)。最初は嫌々食べていたはずが、気づいたら「あれ? 美味しいぞ」と。採れたての野菜の美味しさを知ってしまってからはもう、ごちそうですね。

今後叶えたい夢はありますか?

吉司さん:田んぼをもっと広げたいです。僕たちお米が大好きでよく食べるので、今の量じゃ消費量に追いつかないなと思って。あとは、いつかベーカリーを開業したいと考えています。
千裕さん:うちで採れた野菜をたっぷり詰めた、米粉の惣菜パンとかね。ふたりとも飲食業に就いていたので、その経験をうまく生かしていけたらと考えています。私は和食、夫はイタリアンやスイーツが得意なので、二人のアイデアを組み合わせれば、面白い商品ができるんじゃないかなと思います。
吉司さん:パン屋開業が名倉の方々への恩返しにもなれたら嬉しいです。僕たち2人の田舎暮らしデビューを支えてくださった人へのお礼です。妻に連れてこられて始まった田舎暮らしですが、これまで思いもしなかった方向に人生が進んでいますね。未知の世界に触れたことで、視界が広く開けた気がするんです。そのきっかけをくれた彼女にも「ありがとう。いつまでも笑顔でいてください」と伝えたいです。

設楽町駒ケ原出身(Uターン) 園芸屋「らしく」なくて良い。 2代目経営者は生産者の枠を飛び越えていく。  

有限会社 麻野間園芸
麻野間 達矢さん

設楽町の駒ケ原エリアでもっとも標高が高い場所に位置する麻野間園芸。シクラメンを始めとするガーデニングの定番品種から、多肉植物やめずらしい南米の輸入品種など、その幅広さが魅力の一つです。山の上に広がるビニールハウス群で常時100種ほどの品種を育て、市場へ出荷しています。

現在の代表・麻野間達矢さんは2代目。16歳で設楽町を出た後、カナダ留学や南米旅を経て27歳のときに町に戻り家業を継ぎました。両親が築いた土台は守りながらも、カフェの運営やイベント出展など次々に挑み、駒ケ原に新たな風を吹き込んでいます。

 

▼麻野間園芸
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▼遊べる花屋
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▼星庭 駒ケ原ガーデンビレッジ
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新たにカフェを運営するというのは大きな挑戦だと思いますが、きっかけは何でしょうか?

麻野間さん:現在、利益の大部分を占めているのは市場への出荷です。百貨店や専門店は市場から仕入れ、お客様が店頭で購入する、というのが業界の一般的なしくみ。僕たち生産者には、お客様と直接つながる機会はほとんどありません。それが何だか物足りなくて。この仕事の将来を考えたとき、麻野間園芸とお客様が直接繋がれる場所が必要だと思ったんです。

それで始めたのが「遊べる花屋」(右写真)。僕たちが育てた植物に囲まれながら、コーヒーとスイーツを楽しめるカフェ兼花屋です。もちろん、店内の植物たちはお買い求めいただけますよ。ペット大歓迎・お子さんものびのび遊べます。場所は麻野間園芸のビニールハウスのすぐ向かい側です。この奥地にまで足を運んでいただくために、まずは「麻野間園芸」「遊べる花屋」の名前を知っていただかなくてはなりません。2021年のプレオープン期間には、イベント用に場所を貸し出したり、町外のアウトドアイベントに出展したりとPR活動に奔走しました。(グランドオープンは2022年春を予定)。

カフェの隣でも何やら新しい動きがあると聞きました。

麻野間さん:そうなんです。実は今、庭園も作っているんです。名前は「星庭 駒ケ原ガーデンビレッジ」。駒ケ原の夜はとても星が綺麗なんですよ。それで「星庭」です。歩道や休憩所を整備して、植物好き達が集える憩いの場にしようと考えています。庭園が完成したら、この場所でガーデンウエディングも企画したいなともくろみ中。式を挙げた場所は、ご家族にとって思い出の場所になりますよね。「遊べる花屋」も含め、お子さんを連れて遊びに来ていただいたり、親戚同士で集まる場所に活用いただいたりして、お客様にとって思い出を大切にできる場所になったら嬉しいなあ。植物の生産だけではなく、植物のある空間をコーディネートしてご提供するという新しい道を、今少しずつ開拓しています。

BtoC事業への新たな挑戦、今後が楽しみですね。

麻野間さん:もちろん生産者としての麻野間園芸の強みも伸ばしていかなければなりません。僕たちが取り扱うラインナップには、日本ではなかなか目にしない海外品種があります。たとえば南米に生息する「グンネラ・マニカタ」。世界一大きな葉っぱを持つ品種です。今、こういった”変わり種”の取り扱いを少しずつ増やしています。また麻野間園芸オリジナル品種の開発・流通にも取り組んでいます。こちらはまだ小規模ですが、将来うちの会社を支える事業にまで育てていきたいと考えています。特徴的な品種やうちにしか無い品種に力を入れ、これまで植物に興味が無かった層も、植物マニアの人たちの心もグッと掴みたいですね。

家業は初めから継ぐ予定だったのですか?

麻野間さん:いえ、全く考えていませんでしたよ。むしろ子どもの頃考えていたことは「この町から出ていきたい!」ってことばかり。中学卒業と同時に設楽町を出て、一人暮らしをしながら高校・農業大学校に進学し、その後カナダに1年留学しました。帰国して、就職するにもやりたいことが見つからなかったので、それなら家業をやってみようかと。

きっかけとしては前向きなものではありませんでした。けれどあるとき、自分の中でスイッチが入ったのです。修行を兼ねて東京の園芸店で働いていたときのことです。限定品や希少価値の高い品種がどんどん売れていく光景に非常にワクワクしてしまって。これだ!と。上でも述べた麻野間園芸オリジナル品種の開発です。「うちにしか無い植物を作ろう」と、思いついたら居ても立ってもいられませんでした。育種について勉強するため、その分野に詳しい人を訪ねてエクアドルに発ちました。まず1年間現地の会社で学び、もう1年は南米を旅していました。ひたすら現地の植物を見てまわる旅です。ペルー、ボリビア、ブラジル…。行く先々で多くの植物を勉強できたことが大きかったですね。今、めずらしい海外品種を生産できているのはこの旅のおかげです。

アイデアと、それを実行していく推進力…とにかく麻野間さんのパワーがすごいです。

麻野間さん:考えていることはまだまだあります。うちのハーブを材料にしたスイーツの開発とかね。そろそろ「麻野間園芸って何屋なの?」なんて言われちゃうかも。でもそこまで突き詰めたい。むしろ嬉しい!(笑)。新たな事業に向けて、スタッフの数も少しずつ増やしています。ビニールハウスで植物の世話をする人・カフェや庭園でお客様をもてなす人…皆それぞれ自分の得意を生かせる場所で活躍し、そこで利益を生み、ファンを作り、麻野間園芸全体が成長していく。そうすれば、麻野間園芸としてまた新しい事業にチャレンジできる。その挑戦が駒ケ原に、設楽町にお客様を呼び込み、さらに雇用も生まれ…この場所から、良いことづくしの連鎖が生まれるんです。町で最も高い標高にあり、寒いし、不便も多いのになぜか人が集まってくる。そんな場所になるって考えたら、何だかワクワクしませんか?

いつも頭にあるのは、自分や家族、仲間がもっと楽しく、幸せに過ごすには?ということ。突然思い立ってエクアドルに行ったときも、思い切ってカフェを始めたときも同じです。チャンスを感じたらまず飛び込んでみる。失敗するかどうかはやってみないとわからないですから。このスタンスはずっと変わらないと思います。

千葉県→設楽町東納庫 アイデア&巻き込み力で魅力を再発掘。2人が設楽で描く未来図とは? 2019年〜

一般社団法人コライフ(https://www.colife.or.jp/)
(「したらオリエンテーリングフェスタ」の運営・「古民家宿&バル てらわき」の運営など)

代表理事 戸上 麻美さん
戸上 直哉さん

大学時代にオリエンテーリングというアウトドアスポーツに出会ったお二人。地域おこし協力隊の制度を活用して設楽町に移住し、オリエンテーリングイベントの運営などを通じて町内外に新しい人の流れを生み出しています。地域おこし協力隊の任期終了後も設楽町に定住し、町を盛り上げる新たな取り組みにチャレンジしています。

 

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お二人の活動の軸となる「オリエンテーリング」。どんなスポーツですか?

麻美さん:山林やまちなかに設置されたポイントを通過して、ゴールまでの所要時間を競います。地図やコンパスを使うので、探検しているようなワクワク感があるんですよ。
直哉さん:速さを競うので持久力はもちろん、「どのルートを通れば最短でゴールにたどり着けるか?」といった思考力やとっさの判断力も問われるスポーツです。現在は「オリエンテーリングのまち 設楽町」として全国から人が集う町を目指して、イベントの開催や誘致に取り組んでいます。小中学校の課外授業や遠足にオリエンテーリング体験を提供したりしています。
麻美さん:2021年に開催した「奥三河ほうらいせん2days」では、オリエンテーリングと設楽町の魅力体験をドッキング。オリエンテーリングで汗を流した後に、星空の下でのナイトツアー・地元の有名酒蔵・関谷醸造さんの日本酒と奥三河の食材を楽しむ交流会などを楽しんでいただきました。設楽町でしか体験できないエッセンスをギュッと詰め込んでいます。
直哉さん:「奥三河高原ジビエの森」さんの鹿肉商品、淡水漁業組合さんの甘露煮なども賞品として提供していますが、参加者の方にはとても喜ばれますね。

そもそも、移住先に設楽町を選んだのはなぜですか?

直哉さん:地域に移住しようと考えたきっかけは、オリエンテーリングのイベント運営に挑戦したかったからです。地域おこし協力隊の制度を活用し、そういった活動ができる場所を探していました。
麻美さん:そこでたまたま設楽町を見つけました。この町は傾斜が緩やかな里山に恵まれている、オリエンテーリングにぴったりな場所なんですよ。
直哉さん:「良いじゃん設楽町!」って2人で喜んでいたんですけど、役場に問い合わせたところ、協力隊はミッション型でしか募集していないと言われて。フリーミッション型を志望していた僕たちでは応募できなかったんです。どうしようかと思っていた矢先、担当の武川さんが電話をくださって「何とか来てほしいと思っているから、もう一度詳しく聞かせて欲しい。どうにか枠を作れるかもしれない」と。
麻美さん:オリエンテーリングを軸として活動していきたいこと、イベントを開催し集客を継続できればまちの活性化に繋がることなどお話させていただきました。武川さんをはじめとした役場の方々が動いてくださり、私たちが志望するフリーミッション型の枠を用意してくださったんです。

お二人の熱意が伝わったんですね。

麻美さん:せっかくチャンスをいただいたんだからと私たちもスイッチが入ったんです。
直哉さん:僕たちが住まいに希望していた物件も、当初は購入が条件でした。予算が厳しく「何とか条件を調整していただけないでしょうか」と武川さんに相談したところ、なんと賃貸に変更していただけたのです。きっと持ち主の方に何度も交渉いただいたのだと思います。
麻美さん:あの時期はほぼ毎日の勢いで武川さんに連絡してたなあ。設楽町を見ていたらやりたいことのイメージがどんどん湧いてきて、その思いをしつこいくらい伝えていたと思いますが、嫌な顔せずむしろ良いじゃん面白そうじゃんって、たくさん力を貸してくださりました。
直哉さん:外から来た僕たちの声にこんなに耳を傾けてくださったことが嬉しかったですね。恩返しの意味も込めて、イベント運営などを通じて「また設楽町に来たい」という人を増やしたいと考えています。

Q.「古民家宿&バル てらわき」の活動はどんなきっかけでスタートしたのですか?

直哉さん:オリエンテーリングの活動も軌道に乗りだした頃でした。近所で活動していたときに妻が大きな空き家を見つけてきたんですよ。実は設楽町の空き家の多さは、設楽町に移住してから気になっていたことではあったんです。
麻美さん:ロケーションも良い古民家だったので、町内外の人が集える、バーと宿を兼ねた場所を作ろうということになりました。総務省の「ローカル10000プロジェクト」を活用し、現在はオープンに向けて準備中です(「古民家宿&バル てらわき」2022春頃オープン予定)。
直哉さん:まず、バーと宿のデザインを公募するところからスタートしました。どれほど案が集まるか不安でしたが、なんと東京や九州など日本全国から70ほどの応募が来たんですよ。本当にびっくりしました。
麻美さん:設楽町のことを多くの人に知ってもらいたいと思い、全国からボランティアを募っています。社会人、学生、住んでいる所も様々な人達が、愛知の山奥の設楽町でリノベーションをするって、中々無い光景ですよね。設楽町の大工さんや工務店さんにアドバイスをいただきながら、みんなで作り上げています。
直哉さん:設楽町に移住してから様々な繋がりができました。オリエンテーリングも古民家宿&バルも、活動に興味を持ってくださる方のサポートのおかげで実現できているんです。本当にありがたいです。

これから挑戦したいことはありますか?

麻美さん:ひとつは幼児教育ですね。モンテッソーリという教育方法の指導資格を取得したのですが、その理念に基づいた幼児教具を作りたいと考えています。その材料には奥三河の木材を活用したくて。幼児教育に加えて、木材活用も今後の事業として検討しています。
直哉さん:この地域は大体が人工林で、伐採する時期を迎えています。人工林は適したタイミングで伐採しないと環境破壊に繋がりますし、逆に乱用すると森林破壊を引き起こします。バランスを保ちながら供給できるシステムを作ってみたいです。
麻美さん:奥三河の山林に多いのはヒノキです。香りも良くてアジアでしか育たない品種なので、ゆくゆくは海外にもPRできたら……林業に携わる人の応援にもなるだろうか……なんて、夢は膨らむなあ。古民家宿&バルも木材活用も、いずれは地域の雇用創出に繋げたいと考えています。どんな活動をするにおいても大切にしているのが、「自分たちがチャレンジしたいことと地域貢献を結びつけて考えること」「それを色んな人を巻き込みながら一緒に作っていくということ」。
直哉さん:関係人口を増やすことは、設楽町が持続可能な地域になるために不可欠な要素。持続可能な地域にしたいのは、僕たち2人ともがこの町の暮らしも人も大好きだからです。ずっと続く町にしていくために、これからも僕らの挑戦は続きます。